BIORACER パッド開発の思想

BIORACER パッド開発の思想

なぜBIORACERは、パッドを独自に開発し続けるのか

見えない差が、走りの質を変える。Wave PadとVapor Padに込められた考え方を、ストーリーで解き明かします。

ロードバイクにおいて、本当に語られていないものは何か

ロードバイクの世界で、性能の話題は尽きない。フレーム剛性、重量、空力性能。次にホイール、コンポーネント、タイヤ。それらを比較し、数値を語り、違いを楽しむ文化は成熟している。

では逆に、最も重要でありながら、ほとんど体系的に語られてこなかったものは何か。 それが、サイクリングウェアだ。

ウェアは「着るもの」として扱われがちで、性能を引き出すための装備として意識する機会は驚くほど少ない。 空力や重量を数ワット単位で語る一方で、身体に最も長く触れ、ライド中ずっと影響を与え続けるウェアの役割は、 数値化しづらいという理由だけで、あまりにも軽視されてきた。

パッドは単なる付属要素ではない

ウェアの話になると、通気性や着心地といった言葉で片付けられることが多い。 だが実際には、ウェアはフォームの安定性や身体への負荷、そして集中力にまで影響する。 その差は、走行距離が伸びるほどはっきりと表れる。

なかでも影響が大きいのが、サドルと身体の間に唯一介在する構造体、パッドだ。 パッドの設計ひとつで、ポジションは安定もすれば、崩れもする。 衝撃は吸収もされるし、蓄積もされる。 そして蓄積された衝撃は、フォームの乱れや集中力の低下として現れる。 同じ距離を走っても、ライド後に残る疲労はまったく違ってくる。

BIORACERがパッドを単なる付属要素として扱っていない理由は、そこにある。

パッドという存在

ビブショーツの快適性を語るとき、多くの人がまず思い浮かべるのがパッドだろう。 密度や形状の違いが語られることも多いが、実はそこに、あまり知られていない事実がある。 ミドル〜ハイエンドに分類される多くのビブショーツは、同じメーカーが製造したパッドを使用している。

一社が高品質なパッドを供給し、それを多くのブランドが採用しているのが実情だ。 これは決して悪いことではない。 そのパッド自体の品質は高く、多くの製品の完成度を底上げしている。

ただし、その結果として、価格帯が違っても中身は同じというケースも少なくない。 大量生産によって、トップクラスのパッド自体は、それほど高価な部材ではなくなっているからだ。

なぜパッドを独自に開発し続けるのか

BIORACERのパッド開発には、明確な基準となる環境がある。 ベルギー・フランドル地方の石畳だ。 微細な振動が途切れず、一点に荷重が溜まりやすいこの路面では、「柔らかい」「厚い」だけのパッドはすぐに限界が見える。

一日走り切れるか。集中力を保てるか。フォームを崩さずに踏み続けられるか。 フランドルの石畳は、パッドが走り全体に与える影響を、はっきりと示してくる。

なぜならフランドルの石畳は、短時間では誤魔化せない。 数時間走り続けることで、パッド設計の差が必ず露呈する路面だ。 空力を前提に速さを追求してきた開発の中で、その思想を実走で成立させるには、サドル下の設計を無視できないことが繰り返し明らかになってきた。

だからBIORACERは、パッドを外部に委ねず、独自に開発を続けている。

なぜ“自分たちの手”で作るのか

BIORACERはその流れを理解したうえで、あえて自社でパッドを開発するという選択をしている。 背景にあるのは、バイオメカニクスへの深い理解と、ミリ単位でのフィッティング設計だ。

サドル下で起きていることは、単なるクッションの話ではない。 フォーム、荷重、衝撃、湿度。 それらすべてが、走りの質に影響する。

既製のパッドを前提にすると、ウェア全体の設計はどうしてもその制約を受ける。 だからこそBIORACERは、この領域を外部に委ねず、自分たちで設計・検証する道を選んできた。

その積み重ねが、実戦の中で求められるフィーリングにつながり、結果としてワールドツアーの選手たちからの信頼を得ている。

テストされないパッドは、存在しないのと同じ

BIORACERのパッドは、プロトタイプ段階から量産直前まで、徹底的にテストされる。 社内で開発された専用マシンを用い、路面振動やフレーム剛性が人体に与える影響を数値化する。 ここで見ているのは、振動の有無ではなく、どの程度の衝撃が、どのようにパッドを通過しているかだ。

そのデータをもとに、必要な衝撃吸収量を逆算し、フォームの密度や構造を調整していく。

さらに実走テストも欠かさない。 路面、天候、距離、条件を変えながら検証を重ね、数値上の結果が、実際のライドでも違和感なく成立しているかを確認していく。

研究の行き着いた先

人体は柔らかい。一方で、バイクは年々硬くなっている。 近年、カーボンフレームやホイール、サドル、シューズは、軽量化と高剛性化が急速に進んできた。 しかし人間の身体は変わらない。機材が進化するほど、そのギャップは広がっていく。

ではその差をどこで、どう受け止めるべきなのか。 BIORACERのパッド研究はこの問いに向き合う中で、一つの前提に行き着いた。 それはバイクの硬さを否定するのではなく、人間側で受け止める構造が必要だ、という考え方だ。

ただし、走り方も、距離も、求める感覚も違う。 そうして導き出されたのがWave PadとVapor Padという、二つの異なるアプローチである。 この結論は、感覚論から生まれたものではない。

パッド開発は、実走テストだけで完結しない。 社内のProtoLabでは、専用のテストマシンを用い圧力、耐久性、変形といった要素を数値として検証している。 走って良いと感じるか。再現性をもって良いと言えるか。 その両方をクリアして初めて、Wave PadとVapor Padは世に出ている。

Wave Pad

Wave Padを語るうえで外せないのが、3Dで成形された独特の立体形状だ。 このパッドは「柔らかさ」で包み込むタイプではなく、身体の輪郭に沿って成形され、ペダリング中も位置を保つことを重視している。

その結果、サドル上でのブレが抑えられ、体重が一点に溜まりにくい圧力分散が生まれる。 長時間走ってもポジションを探す必要が少なく、感覚としては明確にパフォーマンス寄りだ。

衝撃吸収についても、Wave Padはやり過ぎない。 高密度フォームを負荷が集中するゾーンにのみ配置し、ペダリングを邪魔しない設計が採られている。 使い込むことで身体の動きに馴染み、安定感と摩擦の少なさがより明確になる。 レースや高強度ライドで集中力を削られたくないライダーに向けたパッドである。

Vapor Pad

Vapor Padは、Waveとは方向性がまったく違う。 こちらは明確に、衝撃を受け止めることを主目的としたパッドだ。 フランドルの石畳を走ると、脚より先に腰や坐骨が削られていく。 Vapor Padは、そのストレスを徹底的に減らすことを狙っている。

マルチデンシティフォームによる厚みと減衰性は、路面からの突き上げを丸くするような感覚に近い。 衝撃吸収だけでなく、蒸れや擦れを防ぐ設計もVaporの特徴だ。

トップレイヤーにはソフトタッチのマイクロファイバーを採用し、汗を溜めにくく、長時間走っても不快感が出にくい構造になっている。 ロングライドやブルベ、コンディションが読めないライドでは、この「安心感」が最後まで効いてくる。

両パッドに共通する“中身”

Wave PadとVapor Pad。方向性は違うが、ベースとなる技術は共通している。 それがEvapor Foam Technologyだ。

オープンな3D構造を持つこのフォームは、空気と水分の抜けが良く、濡れても乾きが早い。 加えて、ゴムのような弾性を備えているため、高密度でありながら路面からの突き上げを効果的に分散する特性を持つ。

数字やスペックを並べるよりも、この技術の価値はシンプルだ。 長時間使っても皮膚トラブルが起きにくい。 その一点に、Evapor Foam Technologyの意味が集約されている。

Wave Padが刺さる人

フォームの安定とペダリング効率を最優先にしたい。高強度ライドやレースで集中力を削りたくない。

Vapor Padが刺さる人

衝撃のストレスを減らし、長時間を快適に走り切りたい。ブルベやロングライド、荒れた路面が多い環境。

※上の「刺さる人」は記事内の内容を読み解いた編集部的整理です。実際には体型やサドル、乗り方でも相性は変わります。

編集部的まとめ

Wave Padは、安定性とペダリング効率を重視したパフォーマンス寄りの設計。 Vapor Padは、衝撃吸収と快適性を優先し、長時間のライドを支える構造だ。 どちらが上か、という話ではない。

同じフランドルの石畳という過酷な環境から生まれながら、答えは一つではなかった。 多くのライダーは、フレームやホイールの違いには敏感だが、サドル下で何が起きているかを深く考える機会は少ない。

しかし実際には、パッドの選択ひとつで、フォームの安定、疲労の残り方、そしてライド全体の質は大きく変わる。 それが、あまり語られてこなかったサイクリングパッドの真実だ。 BIORACERのパッドは、走りの裏側で確実に違いを生んでいる。

1月 28, 2026